わたしと手織り
半年間書かせていただいた私と手仕事のコラムは今回で最終回となります。
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
最後は私の作品制作の中心である手織りについての話をさせていただきます。
手織りとの出会いは大学時代に遡ります。
私の通っていた美術系の学科では、染色や陶芸に並び織物の授業がありました。
実は当時、私は織物の授業が好きではありませんでした。
たて糸とよこ糸の密度を計算して、数百本の糸を綜絖や筬に通す地道な作業。
丁寧に、間違えがないように、計画通りに…。
緻密な作業が苦手だった私は織物をせずに単位をとるため、苦し紛れにフェルトの作品ばかり制作していたのを覚えています。
その一方、糸や素材を集めることは大好きでした。
教室に並ぶ手織用の糸、素材を買いに行ったお店に並ぶたくさんの原毛は見ているだけで心ときめく存在でした。
さをり織りとの出会い
社会人になり一人暮らしをはじめた2017年のこと。当時住んでいた家の近くに「手織り工房じょうた」という手織り教室がありました。
ガラス張りの工房の中では、色とりどりの糸に囲まれてパタンパタンと心地よいリズムで織り機に向かう人たちの姿。
大学時代は苦手だったけれど今なら楽しめるかもしれない!そんな期待を持って、ある日工房に足を踏み入れてみました。
そこで出会った「さをり織り」は私が大学時代に学んだ織物とはまったく違うものでした。
感性の織りと呼ばれるさをり織りには決まったルールや織り方がありません。
大切なのは自分の感覚と向き合うこと。
好きな色を選んで気分のままに織ると、思いもよらない面白い表情が生まれたり、キズや間違えも個性になります。
ものづくりはこんなに自由でよいのだ!
さをり織りは私の手織りのイメージをがらりと変えました。
それからは夢中になって工房に通い、一年後には待望の織り機を自宅に迎えました。
当日住んでいたのは一人暮らしのワンルーム。小さな小さなスペースでしたが、仕事前の隙間時間にも織れることは幸せでした。
ちなみにこの時に住んでいたアパートの名前がコットンハウス。私の屋号atelier cotton houseの由来はここから来ています。
デンマークで学んだ織物
手織りに夢中になっていた時、大好きな北欧で手織りを学べる場所はないかと思い、見つけたのがデンマークのスカルス手芸学校でした。
スカルス手芸学校では、さをり織りとは異なり組織図の読み方、書き方、自分が作りたいものに合わせたタテ糸やヨコ糸の計算方法などを細かく学びました。
また今までは平織りの作品ばかりを作っていましたが、ここでは8枚綜絖にチャレンジし、より複雑な柄を織ることができました。
ここでの授業も課題が決められているわけではなく、何を織るかは自分次第です。
好きな色、素材、デザイン、サイズを選んで作品制作をしていました。
手織りの魅力
手織りの可能性は無限大です。
1枚の織りあがった布はそのままマフラーやテーブルマットにすることもできますし、洋服やバッグ、クッションカバーに仕立てることもできます。
自分の身につけるものや身の回りのものを自分で作れるということは、とても嬉しいことです。
セッティング作業は難しそうに見えますが、慣れてしまえば同じ作業の繰り返し。
仕事や日常生活で上手くいかないことがあっても、手織りをしている時は無心になれる。そんな瞑想のような魅力もあります。
手織りは編み物と比べて道具が必要なので最初の一歩が踏み出せない方も多いかもしれませんが、ボード織りや卓上織り機など、気軽に初めることができる織り機もあります。
そして織り機は1度手にしたら一生楽しむことができます。
SHIRO.さんで扱っている織り機のように、役目を果たしてから数十年経った後、新しい場所で命を吹き返すこともあります。
なんでも手に入る時代だからこそ、「つくる」楽しみは特別です。
より多くの人が手織りの楽しさに出会えるよう、わたしも一歩ずつ活動をしていきたいと思っています。
【筆者プロフィール】長澤舞香(ナガサワ マイカ)
美術系の学科を卒業後、アパレル企業に勤務。
2017年に手織工房じょうたにて「さをり織り」と出会い手織り作品の制作をはじめる。
2022年からデンマークのスカルス手芸学校に半年間留学し、手織り、編み物、刺繍など手芸全般を学ぶ。
現在は手芸店で働きながら、atelier cotton houseとして作品制作をしている。
Instagram/ @ateliercottonhouse
Photo & Text :Maika NAGASAWA
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