Story03 /エッセイ:羊毛作家 緒方伶香さん

【 紡ぐ】


 

紡ぐという言葉には、心地よい響きがあります。

言葉を紡ぐ、物語を紡ぐ、糸を紡ぐ。

 

綿やまゆ、原毛から引き出した繊維に撚りをかけて糸にする工程が、プリミティブで創造性のある営みだからでしょうか。改めて考えてみると、繊維が撚り合わさって糸になり、編んだり織ったりすることで更に1枚の布へと広がっていく様子はとてもドラマチックです。

 

今回は、紡ぎを楽しむための道具を、動力の違いで3種類に分けてみました。


まず、手が動力のものとしてはコマのような形のスピンドルがあります。

 

右手にスピンドル、左手に羊毛を持ち、コマ回しの要領で心棒を回して繊維に撚りをかけ、糸を紡ぎます。シンプルな動作に驚かれる人も多い反面、慣れるまで少々時間がかかりますが、古代から地球上のあちこちで使われている最もシンプルで実用的な道具です。

安価で持ち運べるところも魅力的で、はじめての方に紡ぐ感覚を体験していただくにも最適です。

 

こちらについては、著書「きほんの糸紡ぎ・スピンドルをくるくる回して羊毛を紡ぐ」(誠文堂新光社)の中で詳しく紹介しています。 


そして、次に足が動力のものとして、「眠れる森の美女」や「アルプスの少女ハイジ」で親しみのある紡ぎ車があります。

こちらはペダルを踏み車輪を回転させて撚りをかけます。回転がボビンから導き糸へ、さらには羊毛に伝わった撚りを両手で引きのばして糸にするという仕組みです。

思い通りの糸を作るには足と手のバランスが大切ですが、両手両足を使って身につけていく感覚は、ピアノの習得と似たようなところがあります。

最後は、電力で動く電動紡ぎ車です。先の2つに比べるとかわいくないお値段ですが、スピンドルを回さなくても足で踏まなくてもボタン一つで撚りがかかるので、繊維をじっと見て手で引きのばすことに集中できるところが利点です。

どの道具で紡いでも、慣れてしまえばできる糸に変わりはなく、糸ができる原理も同じ。

からからとリズミカルに回る車輪、束になって撚り合わさった繊維を潔く引きのばす時の弾力。

そのすべてが心地よく、時の経つのも忘れるほどです。

 

とにかく、紡ぎなんて自分には全く縁がないと思っていた私が、紡ぎ車の造形と紡ぐ心地良さに魅了され、既に四半世紀が経とうとしています。

皆さんも、まずは騙されたと思って、紡いでみませんか。





【プロフィール】

緒方伶香(オガタ レイコ)

 

美大卒業後、テキスタイルデザイナーを経て、東京・吉祥寺にある「アナンダ」のスタッフとして羊毛に親しむ。現在はワークショップを開催したり、羊毛のある暮らしや作品を雑誌やテレビで紹介している。

 

羊毛に関する著書多数。『きほんの糸紡ぎ』『えんぎもんフェルト』『羊毛フェルトの教科書』(誠文堂新光社)

『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』『羊毛のしごと+』(主婦の友社)

Instagram @reko_1969

◉ワークショップ

@walnut_tokyo  さんで毎月開催中

◉ノマドニッター編み部

@tegamisha 主催毎月開催中

 

 

 


Photo & Text :Reiko OGATA

Profile Photo  :Chie ENDO