Story04 /エッセイ:羊毛作家 緒方伶香さん

【染める】


 

木の芽吹きの春、冬が終わりあたたかい日が続くと染色の季節到来、身近な植物で染めたくなります。

 

住み慣れた町を毎日のように自転車で走っているので、ご近所さんの庭から公園まで、良い染料になりそうな植物の生息場所は、だいたい頭に入っています。と言っても他人様の物を勝手にいただくわけにはいきませんので、運よく剪定中に出くわした時には、丁重にお願いし持ち帰ります。


染料屋で手に入る乾燥させた植物染料と違って、大抵の場合、新鮮な染料は倍以上の量が必要になりますし、収穫した時期によって色も安定しませんが、そこもやってみてのお楽しみです。

 

洗ってお鍋に放り込み、蓋を閉めたら中火で1時間ほど煮るだけ。後はどんな染液に出会えるか待つのみです。


私の場合、参考にならないくらい自己流で、染液が思ったより濃い場合はお湯を足し、黄味が足りなければとっさにカレー粉を放り込んだこともあります。

 

明るすぎた場合は鉄媒染(※1)したり、一旦引き上げて乾かしたものを別の染料で重ね染めすることもあります。

 

そうやって、自分が欲しい色になるまでめげずに探求していきます。

染液に入れた毛糸が鮮やかに染まる瞬間は何度見ても心躍ります。そして染物が染まるごとに淡くなっていく染液(残液)の変化によって、透明になるまで美しいグラデーションを染めることができます。

 

そんなわけで、植物染めには季節の色を余すことなく楽しめる満足感と、染め上がりの美しさから何度もトライしたくなる面白さがあります。

植物染めに比べると、化学染めはもっと簡単です。

最近では、さまざまな化学染料(粉末)が入手しやすくなりました。まずは絵具を混ぜる感覚で好きな色の染料をお湯に溶かし、欲しい色に近づけます。

 

絵具で図案を描いていたアナログなテキスタイルデザイナー時代は、どんな生地にどんな配色の柄を載せるかを日々考えていました。染料を混色する染液作りには当時の経験がとても役に立っているように思います。

 

染色と聞くと、媒染や定着剤、専門的な知識が必要になってくるのでは?と難しく考えがちですが(学生時代の私がそうでした)、どなたでも手軽に始められるのが染色だと思います。

染色の原理とコツさえつかめば、後は好奇心と経験の繰り返し。

 

私の染色は自由奔放ですが、こんなやり方でもいいんだ!と染色を身近に感じていただければ嬉しいです。

 

(※1)媒染・繊維に金属イオンを定着させること。同じ染料でも媒染剤によって発色が変わる。アルミ媒染(フィトカリ、ミョウバンなど)で染液通りの色に、鉄媒染(木酢酸鉄)で暗めに発色することが多い。

 


◎緒方さんおすすめの化学染料の店

Kakara Woolworks/ カカラ ウールワークス

〒709-0734 岡山県赤磐市弥上580

TEL086-955-9988/ FAX086-995-9987

SHOP HOUR: 営業日

火・水・木 AM10:00-PM5:00

※祝日は定休日です

※お買い物、講習はコロナ対策のため完全事前予約制となりました

HP

https://kakara-woolworks.com/





【プロフィール】

緒方伶香(オガタ レイコ)

 

美大卒業後、テキスタイルデザイナーを経て、東京・吉祥寺にある「アナンダ」のスタッフとして羊毛に親しむ。現在はワークショップを開催したり、羊毛のある暮らしや作品を雑誌やテレビで紹介している。

 

羊毛に関する著書多数。『きほんの糸紡ぎ』『えんぎもんフェルト』『羊毛フェルトの教科書』(誠文堂新光社)

『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』『羊毛のしごと+』(主婦の友社)

Instagram @reko_1969

◉ワークショップ

@walnut_tokyo  さんで毎月開催中(現在満席中)

◉ノマドニッター編み部

@tegamisha 主催毎月開催中

 

 

 


Photo & Text :Reiko OGATA

Profile Photo  :Chie ENDO