【 弓と織り 】
染織以外での違う視点を得られるのがおもしろく、
稽古を続けているのが弓道と茶道。
それと篠笛は習わずに一人で吹いているだけですが
呼吸という面からも学びになることが多い。
共通するのは身体の扱い方で、
肚と腰が身体操作の要になっていて、動作の起点になっている。
つい足や腕のわかりやすい動きに捉われやすいし、
頭でっかちな現代人は身体の中心が頭であるかのようだけど、
腰を据える、腹をきめる、という言葉もあるように、
そして“小手先“という悪い意味での表現があるように、
手先だけで動くのと、肚腰から動くのとでは全くの別物だ。

機織り中、視線は下を向き腕を使うので
首や肩に力が入りやすいけれど
息を下ろして重心を肚腰に落としておけば
下は安定し上体は力みも抜けて、 腕も軽くなり、
肩こり具合も変わってくる。
“上虚下実”でいると動きやすく心身ともに安定するようです。
衣服が変わり生活様式が変わり、
足腰は弱くなり、頭と目と指先が主役となり、
私も例に漏れず、体幹が大事くらいまでは ぼんやり意識できても、
肚や腰なんて気にも止めなかった。
それが、丹田から弓を引くと矢飛びが全然違う、とか、
そんな身体の仕組みを実感してしまうと、
機織りだって身体操作の先のもの、影響がないわけはないだろうと。
もともと長い制作工程のどれもが油断ならないものだけど、
より一層、集中して織ることの大事さを実感します。
機織りの工程はどれも根気のいるものですが
でもそれに没頭している状態はとても心地良いものです。
ただ心を晒して向き合って、
そうして見える世界はどんなだろうかと。

もう五年近く前になるだろうか。漢詩に興味津々の頃で、
小津夜景著『いつかたこぶねのなる日』に出会い、
この言葉に射抜かれました。
“深くありながら浅くもあり、真剣でありながらたわいもない境地”
そんなすばらしい均衡を私も探求していきたいものです。

【プロフィール】
1972年 神奈川県生まれ。現在同県二宮町在住
1996年 大塚テキスタイルデザイン専門学校II部ウィービング科にて織りを学ぶ
1999年〜2010年まで個展、イベント出展など、カラードウールを活かした毛織物を制作、展示を行う。
2011年〜2013年まで、
家族の都合でサンフランシスコベイエリアで暮らし、
その間、カード織りとダマスク織りに取り組む。
2014年〜現在、
ダマスク織りで毛織物と絹織物を制作し、展示を行う。
Photo & Text :Aya YOSHINO
Profile photo : Chie ENDO