
中村千絵さんの手仕事場は京都府宇治市内の閑静な住宅街に位置しています。
ご自宅兼教室アトリエに加え、染めの設備を備えたアトリエも別に所有。作品製作を続けながら、教室では生徒さんの学びたい内容に合わせ染め、織り、紡ぎの技術を伝えています。
中村さんは叔母が手芸店を営んでいた影響で小さい頃から手編みに親しみ、小学生の頃には既にセータも編めるほどの腕前だったそうです。
大学進学の際に、パンフレットに載っていた機織り機の写真を見て「どうやって使うのだろう」と興味を持ち、工芸美術史学科の織物コースへ進学を決めました。
大学では倉敷民芸の系譜を汲む教授のもと、日本文化史の一環として民芸的なアプローチで織物を学びました。
しかし、2年間の学びだけでは物足りず、より専門的な技術と自己表現の方法を求め、川島織物の学校「川島テキスタイルスクール」の2年コースへ進むことを決意します。
そこでは、綴れ織をはじめとする多様な技法を川島織物の職人たちから直接学ぶ機会に恵まれました。
特に、大学時代から触れていたホームスパンは、専門の先生から本格的に学び、寮生活の中でオーストラリアからの講師にも夜間に教えを乞うなど、技術の習得に没頭しました。
年齢も出身地も異なる4人一部屋の寮生活は、人との付き合い方を学ぶ貴重な経験になったそうです。
大学での民芸的な学びと、川島織物での自己表現を追求する学びが、現在の作家活動の基礎になりました。
製作活動を続ける中で、膨大な量の織機や道具一式を面白がって受け入れてくれる、理解のあるご主人と出会い結婚。
子供が4人に増え、子育てが長くなることを見据えて「家の中で仕事ができるように」と現在の仕事場を兼ねたアトリエ付きの家を建てることを決意しました。
また、後年、隣の土地が売りに出た際にもご主人が「染め場にしたらどうか」と購入を後押ししてくれて自然素材でできた気持ちの良い染めのアトリエも持つことになりました。
近頃では、生徒さん達がなかなか時間を確保できないため、草木染めの代わりに化学染料を用いたり、これまではしてこなかった染めた糸の提供を始めたりするなど、通ってくる方が楽しみながら続けられる環境づくりを重視しているとのこと。
毎月開催する「草木染めとミニ講座」では、染色の待ち時間に様々な技法を紹介し、参加者の方の新たな表現を見つけるきっかけ作りになることを目指しています。
作る喜びを分かち合い、ものづくりの魅力を広く伝えることが、現在の指導者としての中村さんの核となっていると話してくださいました。
中村さんの現在の創作活動は、自身で羊毛から糸を紡ぐ「ホームスパン」と、庭の植物など身近な材料を用いる「草木染め」を基本としています。
その上で、2年に1枚のペースでコート地のような大作を手掛けるほか、個展ではスプラングのような、古代の織物技法にも挑戦し、常に自身の興味の赴くままに製作を続けています。
中村さんは、偶然はじまった織物の道で、人との縁とタイミングを活かし、その時々で最善の選択を重ねてきた結果が今につながっていると話してくださいました。
18歳の時に「布は人の手で作れる」と知った衝撃と感動が、今もなお創作活動の原動力となっているそうです。
親族の介護などもあり忙しい日々を送っているそうですが、教室の人々との交流も心の支えとなり、心が軽くなる時間になっているとも感じているとのことです。
中村さんは、今は自身の役割について作り手としてだけでなく「羊毛が糸になり布になるという」多くの人が知らないものづくりのプロセスとその感動を伝える「紹介者」としての役割も担っていきたいとおっしゃいます。
AIが浸透する現代社会だからこそ、手仕事の価値を広く知らせることの重要性を感じているそうです。
今後は自身が紡いだ糸などを素材として販売することも視野に入れて、「作り手と使い手を繋ぎ、ものづくりの魅力をより多くの人々と分かち合う活動」に力を入れていきたいという展望を語ってくださいました。