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Letters Vol.01 From徳島

三嶋 紗織さん


太布織に息づく時間


剣山系の山々に囲まれ、清涼な那賀川の源流付近に位置する旧木頭村。 そんな辺境地に古来から伝わる太布づくりを学ぶため、私は昨年神奈川県から移住してきました。 

 

太布の原材料は一般に和紙の原料として知られる楮です。 

真冬にその幹を収穫し、蒸し、樹皮を剥ぎ、煮て叩き、川で晒し、乾燥させ。

裂いた繊維の一本一本を繋ぎ合わせる、気の遠くなるような糸績み作業。 

ようやく糸ができたら昔ながらの腰機で織りあげ、ようやく太布ができます。

木頭の太布織保存会では現在もこれらすべての工程を手作業で行っています。 

 

衣服が見知らぬ遠くの地で速く作られる現代。布と人間の関係性は昔のそれとは根本から変わりましたが、太布の中には今も太古から変わらない時間が流れています。 


 

写真家の星野道夫さんは、かつて荒野を覆った絶滅動物の群れに永遠に出会えないことを嘆き”自分は生まれるのが遅すぎた”と思いました。しかし初めてカリブーの群れを目の当たりにした時、”間に合った”という感覚を得ます。 

 

 

彼の壮大なスケールとは比較になりませんが、実は私も木頭に来て同じように”何かに間に合った”という気がしているのです。太布織とそれを取り巻く環境や人々、彼らの暮らしがそう感じさせるのです。 

 

 

節のしっかりとした、しわしわの手で畑仕事をこなし慎ましやかで実直な日々を送るお婆さんやお爺さんたち。彼らの佇まいからは、大昔から脈々と続く人間の営みが感じられます。 

 

様々な便利なものが生まれ、彼らの暮らしは現代化した部分も多くあります。しかしそれでも人の営みとして本質的に変わらないものがこの土地にはまだ残っているように感じます。そしてほんの100年ほど前までは太布作りもその生活の一部分だったのです。 

 

 

太布織は大昔から続く不変的な生き方を体現する存在のひとつだと思います。太布づくりの知恵とそれを取り巻く木頭の暮らしを自分の中にできるだけ取り込みたい、という思いを抱きながら、木頭での日々を過ごしています。

 


【三嶋紗織さん プロフィール】

文系大学卒業後、一般企業に勤務。 

2018年から2021年までスウェーデンにある手工芸学校セーテルグレンタンにて 

伝統的な手織りと縫製を学ぶ。 

2023年から徳島県那賀町の地域おこし協力隊に就任 .

旧木頭村にて太布織を学びながら活動中