Interview01 / 羊毛作家 緒方伶香さん 前編


【緒方伶香(オガタレイコ)さん プロフィール】

 

美大卒業後、テキスタイルデザイナーを経て、紡ぎ車と世界の原毛「アナンダ吉祥寺店」のスタッフとして約15年間羊毛に親しむ。現在はワークショップを中心に、羊毛のある暮らしや作品を雑誌、TV、広告などで紹介している。

*紡ぎ車と世界の原毛「アナンダ吉祥寺店」は2021年春に閉店。山梨本店は引き続き営業中。羊毛に関する著書多数。 

『羊毛のしごと+』『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』(主婦の友社)

『きほんの糸紡ぎ』『えんぎもんフェルト』『羊毛フェルトの教科書』(誠文堂新光社)

 

Instagram @reko_1969

 

◉ワークショップ 

@walnut_tokyo  羊毛lesson毎月2回開催中  

@tegamisha もみじ市、布博、月刊手紙舎にて絶滅危惧種のワークショップを開催

@tamakiniime_machida 不定期で開催中

◉ノマドニッター編み部

@tegamisha 手紙社の部活動として毎月開催中



▲緒方さんが染めた毛糸と著書『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』(主婦の友社)よりツキノワグマ
▲緒方さんが染めた毛糸と著書『手のひらの動物・羊毛でつくる絶滅危惧種』(主婦の友社)よりツキノワグマ

方さんのプロフィールを拝見すると、羊毛に至るまでのお仕事の遍歴に興味が湧きます。まずは、どのような経緯で羊毛のお仕事へたどり着いたのでしょうか。

― 緒方さん

出身は愛媛県、瀬戸内海を望む自然に恵まれた町で育ちました。大きな製紙会社がたくさんあったり水引の生産が盛んだったりする地域で「紙の町」と呼ばれています。身内にも手しごとをする人が多い環境で育ちました。

 

そのせいか、高校を卒業すると、京都にある美術大学の染織科に入学しました。なぜ染織科を選んだのかを振り返ると、母や叔母、そして祖母がお洒落好きで、よく着物を着ていたことにあると思います。私自身は着付けを習ったこともなかったのですが、とにかく着物の鮮やかな色や柄が好きで、子供の頃から着物を着て遊んでいました。

 

また、絵を描くことが好きで、デッサンや油絵も習っていたので、何の迷いも無く美大に進みました。着物に惹かれ、着物に憧れてテキスタイルも学べる染織科を選んだのだと思います。

 

入学後の前半は、染めや織りを一通り学びましたが、授業ではあまり興味を持てない作業も多く、専攻はプリントコースにしました。世界的にご活躍されていた写真家の先生に指導を受けられるということもあり、写真の勉強と元々興味があったテキスタイルを学びました。土地柄もあり、西陣で貼り絵箔のアルバイトをしたり、観光地を撮り現像したりと刺激的な毎日でした。

 

卒業後は凸版印刷へ入社し、アートディレクターとして企業向けアートカレンダーの企画制作に携わりました。部署があったフロアには50名ほどの社員がいましたが女性は2人だけ。当時はバブル期、男性の多い環境で忙しく働きました。美術展やギャラリーなどでアーティストをリサーチしたり、企業に向けてプレゼンしたり、優秀な先輩方も多く、たくさんのことを学びました。

 

ですが、やはり自分で手を動かす仕事がしたい、と気づいてテキスタイルデザインへ転職しました。国内子供服メーカーの生地を企画している会社でしたが、そこでは、最新の流行を先取りし、いかにして個性的で着心地の良い素材を作り出すか、そして利益が出せる柄を作り出せるか、ということに向き合う日々でした。いつも2年先のファッションのことを考えていました。

世の中の動向の全てが未来のファッションにつながっていると思い、映画や展覧会、ショーウィンドウめぐりは欠かさず、時には上司とヨーロッパにまでリサーチに行くこともありました。

 

そして当時の図案は全てポスターカラーを使った手作業でしたから、一つの柄を形にするには時間がかかりました。だからこそはじめて自分が描いた柄が採用され、製品化された時は感動しました。毎日忙しかったけど、活気に満ち溢れていたし、良い経験になりました。

 

私事ですが、娘が成人式を迎えるんです。それが私の仕事遍歴からか、なかなか気に入る着物がなく、随分探しました。最終的には、信頼のおける呉服店さんに相談して、一緒に柄行きを考えていただき一から作ったんです。

簡単には決められず、反物が仕上がるまでに約一年かかりましたが、丁寧に作られた生地を広げ、伝統的な技に触れる機会が持てたことは幸せな時間でした。着物はやっぱり素敵です。

 

仕事の話に戻ります…

そして、出産を機にテキスタイルデザイナーを辞めた後、紡ぎ車と世界の原毛「アナンダ吉祥寺店」で働くことになります。大量の羊毛に囲まれて仕事ができる貴重な職場でしたが、「アナンダ吉祥寺店」が閉店し、何十年かぶりに自由に使えるまとまった時間ができました。これから、やりたいことをたくさんやっていこうと思っています。


▲撮影時、SHIRO.の紡ぎ車を使って紡ぎを実演してくださいました。
▲撮影時、SHIRO.の紡ぎ車を使って紡ぎを実演してくださいました。

緒方さんは「羊毛の手仕事」というジャンルを確立した方だと思います。無印良品のキャンペーン広告(2008年)に出演したり、企業や出版社からのオファーがあったりと、休む間もないくらいご活躍をされています。どのような流れで現在のように活動の幅を広げてこられたのでしょう。


― 緒方さん

羊毛は撚れば糸になり、固めればフェルトになる、糸を編んだり織ったりすれば布になってニードルパンチで刺せば立体的なオブジェになる、そして染めれば色を付けられる。

その魅力を羊毛を知らない方に向けてまとめさせてもらったものが『羊毛のしごと』(主婦の友社)です。この本が出版されてからいろいろな企業や出版社からお声がけいただくようになりました。

実用的なレシピ集だけではなく、生活の楽しみとしての羊毛の手仕事に目を向けた本が当時は珍しかったのだと思います。

 

本を作る際は自分を飾らずに、誰にでも伝わる言葉で表現するということを心がけて書いています。これは、今まで出版した本の制作に携わってくださった編集者の方々から学んだことです。

 

羊毛を使った手しごと、特に紡ぎや染織は、道具の入手から技術の習得まで、まだまだハードルが高そうなイメージがありますが、実は簡単で実用的、暮らしの中でお洒落に役立つものが自分の手で作ることができるのが魅力的。完成するまでの工程も楽しいんです。

 

私は、羊毛の手仕事に触れるきっかけになれたら良いなと思っています。 

 

 



 

 緒方伶香さんへのインタビューは後編へと続きます。

20222月公開予定です。

 

▶︎緒方伶香さんにご担当頂いている連載エッセイも月1回更新。

第1回はこちらから