時が織りなすものの一部として 「ほんかく商店」野村智子
2024年の夏です。「手仕事読書部」のきっかけをくれた染め・織り道具 SHIRO.が、古い民家に新店舗を構えたという知らせを受け取りました。じめじめした梅雨を乗り越え、過酷な暑さにもめげずに、スタッフのみなさんが毎日のように手を入れつくり上げたSHIRO.の空間。これからはそこで染めや織りにまつわるさまざまな手仕事が営まれます。人が出入りし物理的にも心理的にも関わり合うことで、長らく使われていなかった民家に再び時間が流れ、新たな記憶が刻まれていくのでしょう。争いを繰り返し、ゴミを出し、環境を破壊するのが人間だとしても、人の手でつくられ、つながりや営みが生み出される場には希望があり、暮らしに寄り添いつくることや生かすことへの意義深さを感じます。
先日、ふと立ち寄った衣食住にまつわる展示会で、すてきな絵を手に入れました。着彩された植物の線画です。展示会場ではたくさんの作品が無造作にいくつもの箱の中に積み重ねられ、それらを自由に手に取って眺めることができました。画家が暮らしの中で長い年月をかけ描き続けてきたらしい、膨大な量の作品との交流。思いがけず長居することになりましたが、入れ替わり立ち替わり人が訪れ、食べたり飲んだり言葉を交わしたりする気配と一緒に、あちこちにある作品の箱を気の向くままに見ていきました。私は画家たちの家で宝探しをしているような気持ちになり、同時に美しさを愛する行為が人の営みの一部であることを思い出していました。心を動かされる体験は何より嬉しいものです。購入した作品は紙の両面に絵が描いてあり、作者である画家は額に入れず気分に合わせて裏返すという、とてもラフな楽しみ方を教えてくれました。私は額縁もわりと好きなのですが、確かにこの絵はかっちり額装するのではなく、そのまま暮らしの中にあるのがいい気がして、仕事部屋のいつも目をやる時計の下にそのまま置くことにしました。今はまだ少しどきどきしますが、いつの間にか私の日常の一部になっているのだと思います。
そんな風にそこここで刻まれていく日々を心に留めながら、講談社学術文庫の『バーナード・リーチ日本絵日記』を読んでいます。リーチの人物や動物、風景などのデッサンを楽しみ、1950年代前半の人の交流やものづくりの現場を垣間見て、戦争が文化にもたらした影響の大きさと、その後の社会の発展とともに失わ失われたものに思いを馳せる。そんな夏を過ごしています。
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【プロフィール】
野村智子
1979年生まれ。編集・ライター・企画業。地域に伝わる手仕事やそこから生まれた産業、文化、現代の地域が抱える課題やそれにまつわる取り組みなどに携わる。本や古物を扱う「ほんかく商店」をイベントにて不定期出店。
Instagram @nomuratomoko_himazine
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