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手仕事読書部/ Vol.2

まわりの音がよく聞こえる雨の日に

「ほんかく商店」野村智子

『イイダ傘店のデザイン』 飯田純久 著 パイ インターナショナル(2014年)
『イイダ傘店のデザイン』 飯田純久 著 パイ インターナショナル(2014年)

  傘を持っていないのに、梅雨に入ってしまいました。私は傘を持ち歩くのが苦手です。家を出る時点で降っていなければ持っていかず、多少の雨ならやり過ごし、出先で買ったビニール傘を使い回すというスタイルで過ごしてきました。ビニール傘なので、壊れたり置き忘れたり取り違えたりを繰り返し、だいたい常時2、3本は家にあるという風だったのですが、めずらしく今は1本も手元にありません。さすがに子どものころは自分の傘を持ち、学校や学童に“置き傘”などもしていたはずですが、記憶をたどってみても思い出に残る傘がひとつもないのでした。

 

 それくらい傘と距離感のある人生を歩んできましたが、何年か前に手仕事で傘をつくる「イイダ傘店」を取材する機会がありました。雨傘や日傘を生地から制作するイイダ傘店の傘は、全国を巡回する受注会や展示会などでの受注販売が基本です。傘の作家である飯田純久さんと、今では少なくなってしまった染めや織りの職人やクリエイターたちが、いくつもの工程を経てオリジナルのテキスタイルを生み出し、イイダ傘店のアトリエでスタッフが1本ずつ丁寧に傘を仕立てています。そこここに制作の道具が置かれたアトリエで着々と傘づくりが進んでいく風景。いつまでも見ていたいような静かな時間でした。

 取材させていただいたその日は偶然にも雨が降っていて、外に出たときに飯田さんがシンプルな黒い傘をさしていたことを覚えています。イイダ傘店の傘は飯田さんのスケッチから生まれる植物や生き物、食べ物などをモチーフにしたデザインが多い印象でしたが、無地だからこそ生地やパーツそれぞれの存在が際立ち、またその飾り気のない佇まいが飯田さんにとても似合っていました。

 

 2014年に出版された『イイダ傘店のデザイン』では、飯田さんの文章とともにたくさんのオリジナルテキスタイルやスケッチ、傘のパーツ、布ができるまでの工程などが紹介されています。私と傘との付き合いは相変わらずですが、紫陽花が色づき、しとしとと雨が降り出すこの季節に、ふと手にとりたくなる1冊です。



【プロフィール】

野村智子

1979年生まれ。編集・ライター・企画業。地域に伝わる手仕事やそこから生まれた産業、文化、現代の地域が抱える課題やそれにまつわる取り組みなどに携わる。本や古物を扱う「ほんかく商店」をイベントにて不定期出店。

 

Instagram @nomuratomoko_himazine